「揺食」の記憶 (鈴木先生)

 



ご存じの通り、日本人の平均寿命は世界一を誇っています。

また、欧米では中高年に太った人が多いのに対し、日本人は比較的スマートです。
それはどうしてなのでしょう?「食事」という視点から考えてみましょう。


人間の成長を、家を建てることに例えてみましょう。

建築資材(=タンパク質)が届くと、エネルギー源であるお弁当(=脂肪・炭水化物)を食べて大工さん(酵素たんぱく質)が汗を流して働き(=代謝)、家(=身体)をつくっていきます。

その家が子どもであれば、発育発達(増築)の真っ最中なので、大工さんたちは元気よく働きます。
ごはんがたくさん詰まった大盛りのお弁当が必要となります。

大人より子どもの体温が高いのは、体の中で大工さんたちが汗を流して働いているからです。

大きなお弁当も食べ切ってしまいます。
ところが、発育が終わって家が完成すると、大工さんの人数は少なくなり、あまり働かなくなります。
お弁当もあまりいらなくなります。

そして中年を迎えても、大工さんが若く元気だった頃と同じように大きなお弁当を届けると多くが余ってしまい、皮下やお腹の中の脂肪組織に体脂肪となって沈着していくのです。
とくに脂肪の多いお弁当を届けると、肥満しやすくなるだけでなく、心臓の動脈に脂肪沈着が激しく起こって、心臓病にも罹りやすくなるのです。


このことはアメリカ人のほとんどが中年になってもステーキやハンバーガーのような高脂肪食を食べ続けるため、ほとんどの人が肥満し、心臓病で死ぬ人が4人に一人にもなるのを見ればわかります。

それに対して日本人は、中年になると自然に揚げ物や炒め物よりも煮物のような脂肪の少ないあっさりした料理を選ぶようになります。これが日本人のスリムで長生きの理由なのです。


それでは、なぜ、アメリカ人と日本人では中年からの食べ方が違ってくるのかですが、子どものときの食生活の体験の違いによります。

アメリカの子どもたちは朝・昼・夕食とも高脂肪食ばかり食べますが,日本の子どもたちは鳥のから揚げや焼肉のような脂肪の多い食事も食べるし、お刺身や鍋料理とごはん、たまには梅干入りおむすびのような脂肪の少ないあっさりした食事も食べます。

ちょうどブランコがゆれるように食べるので『揺食』と呼びます。
このような子どものときの食事の違いによって、アメリカ人は中年になっても脂肪の多い食事しか食べないのに対して、日本人はからだが脂肪をよく分解できなくなったことをキチンと感じることができて、中年になったときからだにあった脂肪を抑えた食事を中心に食べるように変われるのです。


ところで、日本人は昔から、ごはん茶碗を手に持って味の淡白な白いごはんを口に含んで少し噛み噛みしてから、料理をつまんできて口の中でごはんと一緒に味わいながら食べる『口中調味』の食べ方をしてきました。

箸がごはん、おかず、ごはん、おかず、ごはん・・・のようにごはんを扇の要にして箸が行ったりきたりするので『稲妻食べ』とも呼ばれます。

この食べ方は、薄味のごはんの味を味わうことができるので、薄味の美味しさを味わえる食べ方です。

ところが最近子どもたちの中に、おかずを一皿ずつ順番に食べて行き、最後にごはんにふりかけをかけて食べる『棒食べ』が増えています。

この食べ方では、食べ物が全部濃い味付けになってしまうため、薄味の美味しさを感じ取る味覚を育てることができません。


揺食の食べ方は薄味の美味しさ、すなわち醤油味の美味しさを教えてくれるので、煮物や焼き物、お刺身のような脂肪の少ない食事を美味しく食べられるようにしてくれます。

それに対して濃い味だけを美味しく感じるようになると、油味を美味しさの基本にするような食生活に導きます。

パン食は油料理を美味しく食べられますが、醤油味のあっさりした料理とはうまく合いません。

その結果、パン食のアメリカ人は高脂肪食ばかりを食べるようになってしまうのです。


ですから、ごはんをおかずと交互に食べる稲妻食べを子どもたちにしっかり身につけさせることは、食事の味わいの幅を広げる一方で、年代にあった栄養のバランスのとり方を身に付けて、生涯にわたる健康的な食生活を営むことにつながるので、日本人の食育の基本であると考えてよいでしょう。

2010.12.01 Wednesday ごはん授業 00:00 comments(0)