季節の行事:サネモリさんと虫送り

 季節の行事:サネモリさんと虫送りおくった おくった
稲虫おくった
実盛さんは ごしょろくじゃ
よろずの虫 ついてこい

ようさらぁ いなむし
こんがり こんがり こんがった
ブントンカカァ、トンカカヤ
実盛様のお通りじゃ

 突然ですが、問題です。上記2つの少し奇妙な唱え言は何でしょう?
 正解は、稲にまとわりつく害虫を追い払うための行事、虫送りの際に唱えられていたものです。前者が但馬の上生野、後者が淡路の沼島に伝わるものです。兵 庫県内各地でもかつて(50年くらい前まで)は虫送りがおこなわれ、このような唱え言で害虫を追い払っていたのです。また、唱え言は村によりさまざまだっ たようです。

 ところで、この謎の人物、「実盛」とは誰なのでしょう?
 それは源平合戦で活躍した平安時代末期の武将、斉藤実盛(1111〔一説によれば1126〕〜1183)のことです。保元の乱、平治の乱では源義朝に、 義朝亡き後は平氏に使えた名将だった実盛は、年老いても髪を黒く染め奮戦するも、加賀の国で木曽義仲の軍に討たれ最期を遂げました。ちなみに実盛は義仲が 幼少の頃に彼を助けたことがあり、義仲はかつての恩人を討ち取ったことを知ると人目をはばからずに涙したという話が平家物語にあります。

 実盛の最期にはさまざまな言い伝えがあります。稲株につまずいて討ち死にして稲の虫と化した、田の中で討たれた時に「稲の虫となって怨みをはらしてや る」と言った、など。それらの言い伝えと虫送りとの関連はまだはっきりしませんが、虫送りと斉藤実盛との関係にはさまざまな見解があります。御霊信仰につ ながる見方では、稲の害虫となった実盛の怨霊を慰め祀ることにより虫害を防ぐという考え方に結びつきます。言霊信仰的にとらえると、稲の実(サネ)を守る と音通することから稲の実を守る神とみるという解釈に結びつきます。虫送りのおこなわれる時期は主に夏の土用の始め、あるいは田植え終了数日後にですが、 その時期から田植え完了の共同祝日である「サナブリ」「サノボリ」が「サネモリ」へと転訛(てんか)したという民俗学の父・柳田国男の説も興味深い視点で す。

 「実盛」は、唱え言以外にも登場します。虫送りは一般的に、まず村人が村の社寺に集い神事や法要をおこなった後、たいまつの火を焚きながら、カネを鳴ら し太鼓を叩き大声で唱えながら行列を組み、幟(のぼり)や札を掲げて水田をめぐり、虫を集め村の境界まで送り出すという方式でしたが、西日本の行列では 「サネモリサマ」という藁(わら)の人形を用い、担いだり馬に乗せたりして運ぶ、あるいは船に乗せて送り出すという例が多くみられました。

 ちなみに虫送りは特に西日本で盛んでしたが、これは虫送りの対象の多くがウンカという害虫で、西日本ではその被害が大きかったためであるといわれています。

 現在でも虫送りは主に地域の伝統行事として営まれているところがあり、中には途絶えたが近年復活したという例もあります。今でこそ科学技術の発達により さまざまな方法で害虫駆除が可能になりましたが、かつては効果的な手だてがなく、人々はこのような行事を通じて健やかな稲の成長を願ったのです。


参考文献
柳田国男『定本・柳田国男集』筑摩書房
大島暁雄・松崎憲三・宮本袈裟雄・和田邦平編『日本民俗調査報告著集成 近畿の民俗 兵庫県編』三一書房
福田アジオ・新谷尚紀・湯川洋司・神田より子・中込睦子・渡邊欣雄編『日本民俗大辞典』 吉川弘文館
2009.08.06 Thursday 過去の記事 00:00 comments(0)