ごはんと環境:赤米(あかまい)ものがたり

 ごはんと環境:赤米(あかまい)ものがたり

 農産品直売所や自然食品のお店、最近では一部のスーパーなどでも見かける赤米は、お酒やお菓子などの加工品も登場しすっかり定着しています。
 この赤米を稲の「変わり種」と思われている方も多いでしょう。ところがその全く逆で、一般的な稲こそ赤米の変種なのです。
 栽培種の稲と同じ属の17種類の野生のイネの子実は、多くの場合赤または赤褐色です。また、2004年に稲の全ゲノム(生物のもつ全ての遺伝情報)が完 全に解読されましたが、その成果により、赤米の遺伝子内部の14塩基のDNA配列が欠失し遺伝子機能を失うことで赤米から白米へとなることが判明しまし た。よって、赤米と一口に言っても、白米にインディカ米やジャポニカ米、早稲種や晩稲種、うるち米やもち米といろいろと種類があるのと同様に、さまざまな 種類があるのも当然なのです。

 かつて日本各地でも赤米は栽培され、古代から食用にされていました。稲より野生に近い種類ゆえ、多少粗野に育てても結実することから、特に悪条件に強い 大唐米(たいとうごめ)品種の赤米は、新田開発により開けた低湿地、日当たりが悪い谷の奥の水田など条件の悪い場所で作付けがおこなわれました。大唐米の 赤米は食味が劣るものの、悪条件でも育つばかりか稲の不作の時でも収穫でき、しかも炊き増えすることから、備前や美作などの地域では下層の農民たちが糊口 (ここう)をしのぐため欠かせないものでもありました。また、東北地方の在来種は耐冷水性があり、用水の冷たい水が入ってくる水田の水口近くに植えられて いました。

 しかし、米が時代とともに生活の糧から流通経済の対象となってくると、価格の安い赤米は敬遠されるようになります。また、水口近くに植えられた赤米や、 前年田んぼに落ちた種子が育った赤米が白米に混じることも多く、混じったお米は品質が低下したものと見なされるようになります。特に白米が不作の時に、悪 条件に強い赤米は混入割合が多くなります。赤米の混入は明治期以降大きな社会問題と認識され、しだいに赤米は駆逐されていくのです。

 ところが、1970年代にはじまった米の作付け調整が続く中、米消費の多様化をキーワードにスーパーライス計画(需要拡大のための新形質水田作物の開 発)が1989年に開始され、タンニン色素を含み各種ビタミンに富む赤米は健康米として再び注目を浴びるようになります。これまで食味が悪いと敬遠された 赤米ですが、ベニロマンや奥羽赤370号など新しく品種改良された食味の良い赤米も登場。もち米の西海観246号はピンクの穂が美しく、観賞用としても人 気があります。最近の研究では炊飯米に接種した黄色ブドウ球菌の増殖を抑制するという報告もあり、さまざまな特性を付加価値に変え、赤米はひとつのお米の ジャンルを確立しつつあります。
しかし一方で、白米と混入しないよう、栽培時期をずらし出穂の時期が重ならないような調整や、花粉が飛ばぬよう他の水田と離れた場所で栽培するなどの栽培環境の工夫が求められます。

 赤米は神聖なお米として伝統的に栽培されている神社もあり、今でも神事に使用されています。一方で最近では赤米や黒米の穂の色を利用した田んぼアートが まちおこしや観光の一環としておこなわれています。兵庫県においても表面が濃い紫色の紫黒米(品種名:むらさきの舞)が、たつの市や加西市を中心に栽培さ れており、健康酢や酒類、そうめん等に利用されています。

参考文献
小川正巳、猪谷富雄『赤米の博物誌』大学教育出版
石谷孝佑『米の事典−稲作からゲノムまで』幸書房
有坪民雄『<イラスト図解>コメのすべて』日本実業出版社


2009.08.20 Thursday 過去の記事 00:00 comments(0)