現在の社会では、さまざまな食物を普通に食べていれば、欠乏する栄養素はほとんどありません。
この
「普通に食べている」ということが重要です。
しかし最近は、その「普通の食事」ができない人が増えているといえるでしょう。
それは食べ物が氾濫しているからだと思います。
食べないと体に障る、あるいは問題だという意識が昔の食べられない時代にはありました。
今は、コンビニやスーパーに行けば何でもあります。
食べようと思えばいくらでも食べられるので、食を軽く見すぎてしまっているのだと思います。
特に若い人にはそういう傾向があるかもしれません。
ダイエットというのは、食べ物が豊富にある時代にだけもてはやされる現象で、飢餓の時代にダイエットする人はまずいません。
今はちゃんと食べなくても死にはしないだろうという安心感があります。
それが重なって、最後は生活習慣病や過激なダイエットに結びついてしまっているのではないでしょうか。
何かひとつの食べ物で、健康になるということはありません。
健康というのは、さまざまな食物を摂取できて、うまく代謝が回転しているときに、確保できるわけです。
また、何をどれだけ食べればいいかという場合、「このくらいで大丈夫」という幅は、結構広いのです。
人間は多少の栄養素の偏りに対して適応する高い能力があります。
過剰に栄養素をとれば排泄するか貯蓄するし、少なければ代謝の回転を落とすなりして大事に使っていきます。
人間の身体には恒常性を維持する機構がいつでも働いているのです。
それは人間の身体が困難、不利な条件で栄養学がなかった時代でも長年培ってきたものです。
ですから、普通の生活を送っていれば、何が何ミリグラム必要かなど、あまり神経質にならなくてもいいと思います。
「普通の食事」で、人間にとって一番重要なものは、
血糖、つまり、血液の糖分です。
糖は人間の最も大事な器官である脳の唯一の栄養です。
糖分が不足すると肝臓やすい臓、筋肉も分解してしまいますし、血糖値が低下すると昏睡してしまいます。
糖というと砂糖を連想してしまいますが、米やジャガイモに含まれるでんぷん質と砂糖や麦芽糖などの甘い糖は生理的には、ほぼ同じものです。
一般的に栄養学ではでんぷんを含めて
糖質といいます。
糖の次に大事なのは、心臓などの臓器や筋肉、神経、血球などを作るばかりでなく、免疫も支える
タンパク質です。
タンパク質の原料となるアミノ酸の多くは糖からは作れませんから、食べなくてはなりません。
それでは脂肪は生きていくうえでどういう関係にあるかというと、結局は身体の中のあまったエネルギーの貯蔵形態です。
必須の脂肪酸がいくつかありますが、微量でいいので「普通の食事」で足りています。
ですから、現代の私たちは、脂肪をそれほど積極的に食べなくても大丈夫です。
そうすると、「普通の食事」をどう捉えるかが、大事になると思います。
それはもちろん栄養素の量で捉えられるようなものではなくて、たとえば、親は何を食べていたか、自分は今、何を食べたいのか、というようなことから考えるということです。
肥満などが問題になる少し前の一般的な日本人の食生活は、いいモデルだったと思います。あの頃のような朝昼晩の食事を基本に考えれば、ほぼ大丈夫ではないかと思います。
<参照・出典:「人間は脳で食べている」「おいしさを科学する」著・伏木亨 ちくま新書>